2026年春、中東情勢の緊迫化をきっかけに「ナフサ不足でトイレットペーパーが消える」という情報がSNSで拡散し、ドラッグストアに人が殺到する事態が各地で起きています。
これは本当に起こりうることなのか。現状と私たちがすべき行動を、事実をもとに整理します。
※この記事にはPRが含まれています。
そもそもナフサとトイレットペーパーは何の関係がある?
現金アンチなので数億年ぶりにコスモスに来たんだがこれ草 pic.twitter.com/O41I53LsRw
— @まつぽっくり (@matupocuri) April 12, 2026
ニュースや SNS で「ナフサ不足」という言葉を見かけても、「ナフサって何?」とピンとこない方も多いのではないでしょうか。まずは基本から整理しましょう。
ナフサとは、原油を精製する過程で得られる透明な液体のことです。ガソリンや軽油と並ぶ石油製品のひとつで、私たちの身のまわりにある「プラスチック」や「合成繊維」のほぼすべての出発点となる原料です。
ペットボトル、食品用ラップ、洗剤のボトル、衣類、そして医療現場の手袋や注射器にいたるまで——現代の暮らしに欠かせないものの大部分が、このナフサから作られています。
では、トイレットペーパーはどうでしょうか。ここが重要なポイントです。
トイレットペーパー本体の原料は、パルプや再生紙です。ナフサとは直接関係がありません。製紙工場では木材由来のパルプ、あるいは古紙を溶かして紙を作ります。石油化学製品ではないため、ナフサの供給量が変わっても、トイレットペーパーそのものの製造には原則として影響しません。
では、なぜ「ナフサ不足=トイレットペーパー不足」という話が出てくるのでしょうか。
答えは「包装フィルム」にあります。スーパーやドラッグストアに並ぶトイレットペーパーは、ポリプロピレン(PP)製の透明なプラスチックフィルムで包まれています。このフィルムの原料こそ、ナフサ由来の石油化学製品です。さらに、フィルムに商品名やデザインを印刷する工程も、同様のプラスチック素材を使います。
高知県の、ティッシュやトイレットペーパーを包むプラスチックフィルムの製造・印刷を手掛けているある印刷会社の社長は、取材に対し「原料の供給制限が実際に起こってきた。3月下旬頃からパニック状態になってきた」と話しました。
つまり構造を整理すると、こうなります。
- トイレットペーパー本体:パルプ・再生紙が原料 → ナフサ不足の影響を受けない
- 外側の包装フィルム:ポリプロピレン製 → ナフサ不足の影響を受ける可能性がある
👉「トイレットペーパーが消える」という表現はやや誇張されていますが、「包装できなくなると出荷できなくなる」という意味では、まったく無関係とも言い切れません。このあたりの正確な理解が、冷静な判断につながります。
現在の供給状況は実際どうなのか

では2026年4月時点で、実際の在庫・供給状況はどうなっているのでしょうか。政府・業界団体の公式発表をもとに確認します。
ナフサの調達構造
日本が消費するナフサは、国内需要の44.6%を中東から輸入しており(2024年実績)、国産も39.4%ありますが、その大部分は中東産原油を国内製油所で精製したものです。つまり中東依存度は実質的に8割前後に達します。
2026年2月末にイスラエルと米国がイランへの攻撃を開始したことで、ペルシャ湾を経由する原油の安定供給に懸念が高まり、石油化学メーカー各社がエチレンの減産を始めました。これがナフサ不足問題の発端です。
業界団体の見解——「直ちに供給困難な状況ではない」
日本の主要な石油化学メーカー25社が加盟する「石油化学工業協会」は2026年3月17日、公式コメントを発表しました。その内容は以下のとおりです。
- 石油化学製品全体の国内在庫:約2カ月分
- ポリエチレン・ポリプロピレンなど主要製品:国内需要の3カ月半〜4カ月分
- 中東以外の調達先(米国・アフリカ・アジア)からの輸入拡大を進めている
- 「直ちに供給困難となる状況にはない」との認識
同協会は、ペルシャ湾以外の地域からナフサの代替調達を確保しながら、国内でのナフサ精製を継続しているとも説明しています。
政府の見解——「6月に供給が切れる」という報道は事実誤認
一部のニュース番組が「6月には供給が確保できなくなる」と報じたことを受け、高市早苗首相は2026年4月5日、自身のSNS上でこの報道を事実誤認だと否定しました。
国内でのナフサ精製の継続に加え、中東以外からの輸入増加や川中製品の在庫確保、新たな海外調達によって供給は維持できるとの立場です。
「2カ月分」という数字をどう読むか
「在庫が2カ月分」と聞くと不安に感じる方もいるかもしれません。しかしこの数字は「2カ月後に必ず底をつく」という意味ではありません。
在庫が減っていく一方で、中東以外からの代替調達・国内精製の継続・需要の抑制が同時に進むためです。経産省もこの点を説明しており、単純な計算で「○月に枯渇する」とは言えません。
また、家庭紙(トイレットペーパー・ティッシュ)を製造する日本家庭紙工業会も、「原紙(本体)の製造に直接の影響はない」とのスタンスを示しています。現時点で製造・出荷を止める事態には至っていません。
まとめると
| 項目 | 現状 |
|---|---|
| トイレットペーパー本体の原料(パルプ) | 影響なし |
| 包装フィルム(ポリプロピレン) | 供給制限の懸念あり・一部で現実化 |
| 石油化学製品全体の在庫 | 約2カ月分(2026年3月時点) |
| 主要製品(PE・PP)の在庫 | 3カ月半〜4カ月分 |
| 政府・業界の公式見解 | 「直ちに供給困難な状況ではない」 |
現時点でトイレットペーパーが今すぐ店頭から消えるという根拠はありません。 ただし、包装フィルムの調達が滞れば出荷に影響が出る可能性はゼロではなく、状況を注視する必要があります。
では、なぜ棚が空になるのか——「パニック買い」という本当の脅威

前の章で見たとおり、政府も業界団体も「直ちに供給困難な状況ではない」と説明しています。にもかかわらず、ドラッグストアの棚が空になる事態はなぜ起きるのでしょうか。
答えは「パニック買い」という、過去にも繰り返されてきた現象の中にあります。
過去の教訓①:1973年のオイルショック
原点は半世紀以上前に遡ります。1973年10月、第1次オイルショックが起きると、大阪・千里ニュータウンのスーパーにトイレットペーパーを求める行列ができました。
その発端は、ある主婦の「うわさ話」だったとされています。それがテレビ・新聞で報道されると、不安は連鎖反応のように全国へ広がり、本格的な品薄を招きました。
「報道が品薄を作った」という構造です。
過去の教訓②:2020年のコロナ禍
2020年のコロナ禍では「品不足のマスクとトイレットペーパーの原料は同じ」というデマがSNSで拡散し、トイレットペーパー販売のPOSデータが一時前年比約260%に跳ね上がりました。
実際には原料も製造ラインもまったく別であり、完全なデマでした。しかし、デマが本物の欠品を生み出したのです。
2026年の今回は?
今回も3月中旬に前年比141%まで上昇したが、3月下旬には90%台前半にまで落ち着きました。コロナ禍ほどの爆発的な買い占めには至らず、一定の落ち着きを見せています。
しかしこれは、パニックが「起きなかった」ということではなく、「拡大する前に抑制された」に過ぎません。
経産省が3月19日に公式X(旧Twitter)でわざわざ注意喚起の投稿をしたのも、「実際には不足していないのに買い占めが起きる」という最悪のシナリオを防ぐためでした。
需要が急増すれば流通が追いつかず、結果として本当に棚が空になり、他の商品にも連鎖する——それこそが行政が最も警戒していることです。
「情報」が引き金を引く
重要なのは、パニック買いは「実際の供給不足」よりも「不安を煽る情報」によって起きるという点です。
コロナ禍では、誤情報や過熱報道が買い占めを招き店頭から商品が消えました。
丸富製紙は公式SNSで倉庫在庫や出荷の様子を発信し、供給は維持されていることを説明。イオンも大量陳列を通じて在庫の厚みを可視化し、消費者の不安抑制につなげました。
今回も同じ構図が繰り返されています。不安を感じたら、まずSNSではなく政府・業界団体の公式発表を確認する習慣が、社会全体としての「品薄対策」になります。
トイレットペーパー以外に本当に注意すべき製品は?

「ナフサ不足でトイレットペーパーが危ない」という情報に目が向きがちですが、実は本体がパルプ製のトイレットペーパーより、直接的な影響を受けやすい製品が家庭の中にいくつもあります。正確な優先順位を把握しておきましょう。
販売データが示す「実際に売れているもの」
全国のスーパー・コンビニ・ドラッグストア約6,000店舗の販売動向を追う「インテージSRI+」によると、2026年3月30日週の販売金額前年比で1位となったのはアルミホイルで154%と前年の1.5倍超に伸長した。
そのほか、食品の温めや保存に使うラッピングフィルム、ビニールや家庭用手袋、食品保存バッグなど石油由来の商品が上位に並んだ。
これらの商品は、製品自体がほぼ100%プラスチック・石油由来の素材で構成されています。トイレットペーパーと違い、「本体は紙で包装だけがプラスチック」という分離がないため、ナフサ不足の影響がより直接的に及びます。
特に注意が必要な製品カテゴリ
✅食品用ラップ・包装材(ラッピングフィルム、ジップ袋、食品保存バッグ)
原料はポリエチレンやポリプロピレンで、ナフサから直接製造されます。旭化成(サランラップ)もクレハ(クレラップ)も現時点では通常生産を続けていますが、長期的な価格上昇リスクは否定できません。
✅使い捨て手袋・ゴミ袋
こちらも石油由来素材が主原料で、コスト上昇の影響を受けやすい製品です。業務用・家庭用ともに流通量の変化に注意が必要です。
⬇使い勝手のいいレジ袋⬇
✅プラスチック容器・ペットボトル関連
食品トレイや容器類は、素材そのものがナフサ由来です。食品価格への波及を通じて間接的に家計に影響します。
✅医療・衛生用品(不織布マスク、使い捨て手袋、注射器)
衣類の原料となる合成繊維、医療現場で不可欠な手袋や注射器にいたるまで、ナフサから作られる素材は私たちの生活全体に波及する。医療機関での需要が高い製品は、家庭での買い占めが特に影響を広げやすいカテゴリです。
「値上がり」への備えも視野に
ナフサ不足の影響の多くは「1〜3か月後」に家計として実感される遅行型であり、2026年夏以降には幅広い品目での価格上昇が現実化する可能性があります。
「買えなくなる」よりも「値上がりする」シナリオのほうが現実的な脅威として想定しておく必要があります。今すぐ大量に買い込む必要はありませんが、日常的な消耗品のコストが上昇する可能性を念頭に、家計の見直しをしておくことが賢明です。
正しい備え方——専門家が勧めるのは「買いだめ」ではない

不安を感じると「とにかく買い込もう」という行動に走りがちです。しかし今回の状況に限って言えば、それは逆効果になりかねません。
ある備え・防災アドバイザーは「ナフサ危機への備えは、何をどれだけ備えればよいかが分からないという厄介な性質を持つ」と指摘します。
リスクが現在進行系で変化し続けているため、「どれだけ買えば安心か」という答えが出せないのです。
「量の確保」より「ムダの削減」
専門家が繰り返し勧めるのは、大量買い占めではなく日常のムダを見直すことです。
詰め替え用製品を選んでプラスチック使用量を減らす、使い捨て用品の利用を見直す、長く使える製品に切り替える…こうした日常の小さな工夫が、中長期的な品薄・値上がりへの最も現実的な対応です。
ローリングストック法が現実的
では備蓄は不要なのかというと、そうではありません。防災の観点からも内閣府は「最低3日分、できれば1週間分」の生活必需品の備蓄を推奨しています。今回のナフサ不足問題でも、この原則は変わりません。
鍵になるのが「ローリングストック法」という考え方です。常に自宅に「+1〜2個」の在庫を持ち、使った分だけ補充していくサイクルを作ります。
洗剤の詰め替えを1袋余分に置く、ラップをもう1本ストックしておく——これだけで品薄が起きた際に焦らずに済みます。まとめ買いではなく、日常の買い物の延長線上で在庫を保つ習慣が最も無理なく続きます。
「常に○個持つ」ルールを日用品ごとに決める
無くなってから買いに行くのではなく、常に○個の在庫を持つといったルールを定め、それ以下になったら補充する習慣を付けるのが良いルールではないかと思います。
これは大地震や水害後の在宅避難の際にも役立つため、今回の騒動をきっかけにそうした習慣を作っておくことは、将来の備えとしても合理的です。
特に今、意識したい5つの行動
1️⃣情報源を選ぶ
SNSの拡散情報ではなく、経産省・石油化学工業協会・各メーカー公式の発表を確認する習慣を持つ。
2️⃣ローリングストックを始める
今すぐ大量購入ではなく、+1〜2個の余裕を作る買い物スタイルに切り替える。
3️⃣詰め替え製品を選ぶ
洗剤・シャンプーなどは詰め替え用を選ぶことでプラスチック使用量を抑えつつコストも下がる。
4️⃣値上がりを家計に織り込む
2026年夏以降、食品包装材・日用品の価格上昇が家計に影響してくる可能性を想定しておく。
5️⃣生活の「脱プラスチック」を進める
ラップ代わりのシリコン蓋、繰り返し使えるエコバッグ、固形シャンプーなど、石油由来素材に頼らない選択肢を日常に取り入れる。
今日のお買い得商品をチェックする
⬇ ⬇ ⬇
まとめ——今、私たちに必要なのは「冷静な判断」
この記事をここまで読んでいただいた方には、以下の3点が伝わったかと思います。
✅トイレットペーパーが「今すぐ消える」根拠はない。
本体はパルプ製でナフサとは無関係です。包装フィルムには影響が及ぶ可能性がありますが、業界団体・政府ともに「直ちに供給困難な状況ではない」との立場を維持しています。
✅本当に怖いのは、情報に踊らされたパニック買いそのものだ。
1973年のオイルショックも、2020年のコロナ禍も、品薄の引き金は「不安の連鎖」でした。今回も同じ構図が繰り返されようとしています。
✅注目すべきは「値上がり」と「包装材」だ。
ラップ・ゴミ袋・食品保存バッグなど直接ナフサ由来の製品は、品薄よりも価格上昇のリスクが現実的です。適量のローリングストックと日常の使い捨て習慣の見直しが、最も賢い備えになります。
情報が飛び交う局面では、「何を信じるか」の判断力こそが最大の防御です。政府・業界団体の公式発表を基に、冷静に状況を見極めながら、日常の延長線上で無理なく備えていきましょう。
※本記事の情報は2026年4月28日時点のものです。中東情勢の変化によって状況が変わる可能性があるため、最新情報は経済産業省および石油化学工業協会の公式発表をご確認ください。

